九州に「第3の集積地」が見えてきた — 伊万里に200MW、シンガポールのDayOneが選んだのは国の指定の外だった

✍️ DCトレンド研究編集部(現役DCエンジニア監修)
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10月2日、伊万里市と進出協定

2026年10月2日、シンガポールに本社を置くデータセンター事業者DayOne(デイワン)が、佐賀県伊万里市と進出協定を結びました。

項目内容
場所伊万里市松浦町、伊万里東部工業団地
敷地約13万3,000〜13万5,000㎡(報道により差あり)
受電容量200MW(九州屈指の規模)
確保済みの電力DayOneの発表では、160MW分の「電気付きの土地」を確保済み
スケジュール2027年着工、2030年に第1期の稼働を予定。段階的に開発
投資額公表なし。同社幹部は「一般的な初期投資額は1MWあたり2,000万米ドル」と説明。単純計算で約6,000億円
雇用運用時に60〜80人
電力九州電力から必要量確保のめどがついたと説明
冷却「水の使用を抑える冷却技術」を導入しているとの説明

伊万里市は今後、地元への説明と、環境保全協定の締結を予定しています。

DayOneのCEO、ジェイミー・クー氏は、九州について「日本のデジタルインフラの中で、重要な新しい立地になる可能性がある」とコメントしています。

DayOneとは何者か

日本ではまだ知名度の低い会社なので、素性を整理しておきます。

  • 前身は、中国のデータセンター大手GDSの海外部門「GDS International」。2022年に設立され、2025年1月1日にDayOneとして独立した
  • 独立に合わせた資金調達(シリーズA・B)で、約19億ドルを集めた。出資者にはソフトバンク・ビジョン・ファンド、米シタデルのケン・グリフィンCEO、コーチュー、バウポストなどが名を連ねる
  • 事業拠点はシンガポール、マレーシアのジョホール、インドネシアのバタム、バンコク、香港、東京
  • 日本では、香港の投資会社Gaw Capitalと組み、東京で80MWのデータセンター群を開発中。その第1期(IT容量18MW)は2027年半ばの躯体完成を目指している

つまり、東京に続く、日本で2つ目の拠点が伊万里ということになります。

九州北部に、600MW超が並び始めた

伊万里の案件は、単独で見るより、九州北部の地図の上で見るほうが意味が分かります。

場所事業者受電容量稼働予定
福岡県糸島市アジア・パシフィック・ランド(APL)300MW(6棟、総投資3,000億円超)2029年1月以降に順次、2034年12月に全棟稼働
福岡県北九州市(VOLTAプロジェクト)APL・日鉄興和不動産120MW2029年
佐賀県伊万里市DayOne200MW2030年(第1期)

3案件の合計で620MW。 しかもAPLは、九州で管理下にあるパイプラインが合計1GWに達していると公表しています。

当サイトは以前、名古屋のNGO1を取り上げた際に、東京・大阪に次ぐ「第3の集積地」はどこになるかを考えました。九州北部は、その有力な答えの一つになりつつあります。

佐賀は、国の「指定」に入っていない

ここで、一つ気になることがあります。

国は2026年9月、GX戦略地域の第1弾として、データセンター集積型の9地域を認定しました。九州からは、福岡県の北九州市・直方市・鞍手町と、鹿児島県の薩摩川内市が入っています。

佐賀県は入っていません。糸島市も入っていません。

にもかかわらず、九州北部で最大の2案件(糸島300MW、伊万里200MW)は、どちらも国の指定の外に計画されています。

これは、前回のJERA千葉の記事で書いたことと同じ構図です。国が「ここに集めたい」と指定する場所と、事業者が「ここに建てたい」と選ぶ場所は、必ずしも一致しない。 事業者が見ているのは、指定の有無よりも、電気がすぐ来るか、土地がすぐ使えるかです。

GX戦略地域に認定されれば、系統の先行整備や補助金といった支援が受けられます。それでも指定の外を選ぶということは、伊万里では、支援を待つより早く電気と土地が手に入ると判断した、と読むのが自然です。

【現場視点】なぜ伊万里なのか、何が課題なのか

ここからが、この記事で最も伝えたい部分です。

論点1:「工業団地」という選択の強さ

伊万里東部工業団地は、すでに工業用地として造成・区画されている土地です。

これがDC開発では大きな意味を持ちます。

  • 用途地域の変更や農地転用が要らない — 年単位の手続きを省ける
  • 道路・上下水道などのインフラが整っている — 重量物の搬入路もある
  • 自治体が誘致する前提で用意した土地 — 地元との調整の土台がある

当サイトは前回、送電網の空押さえ対策の記事で、10月1日から系統の申込み前に、用地・受電点・設計図面まで固めておく必要があるようになったと書きました。最初から区画が決まっている工業団地は、この新ルールのもとで最も動きやすい土地です。

DayOneが「160MW分の電気付きの土地を確保済み」としている点にも注目してください。200MWのうち160MWは、すでに受電のめどがある。 残る40MWの扱いを含め、段階的にどう電力を引き上げていくかは、2027年度に導入が予定される段階別契約のルール(最終契約電力30MW以上が対象)の影響を直接受けることになります。

論点2:九州の電気は「余っている」のか

九州は、全国で最も再生可能エネルギーの出力制御が多いエリアの一つです。九州電力送配電は、2024年度の九州本土の再エネ出力制御率を約6.2%(約9.7億kWh)と見通していました(2024年9月時点)。太陽光の発電が多すぎて、せっかくの電気を捨てている状態です。

ここから「九州は電気が余っているから、DCに向いている」という議論がよく出ます。

半分は正しく、半分は注意が必要です。

  • 正しい部分 — 九州は首都圏ほど系統が混雑しておらず、大きな需要を受け入れる余地が相対的に大きい。九電が「必要量確保のめど」を示せたのも、その表れ
  • 注意が必要な部分 — 出力制御で捨てられているのは、主に晴れた日の昼間の太陽光です。データセンターは24時間365日、ほぼ一定の電力を使います。夜の電気、雨の日の電気は、余っていません

捨てている昼間の電気を本当に活かすには、AIの学習処理を昼に寄せるような柔軟な運用や、蓄電池との組み合わせが必要になります。「九州=再エネが余っている=DCに最適」は、少し単純すぎる図式です。

論点3:原子力発電所との距離

もう一つ、地図を見ると避けて通れない事実があります。

伊万里市は、九州電力玄海原子力発電所の30km圏(UPZ:緊急防護措置を準備する区域)に含まれています。

これは、DCにとって二つの意味を持ちます。

  • 電源としての近さ — 24時間安定して発電する脱炭素電源が近くにある。GX戦略地域の「脱炭素電源活用型」が原子力立地と重なっていたように、原子力とDCの組み合わせは国の政策の流れでもある
  • BCP上の確認事項 — 万一の原子力事故の際、UPZでは屋内退避などの措置がとられる可能性がある。DCの運用要員が出勤・常駐できるかは、顧客がBCP(事業継続計画)の観点で必ず確認する項目になる

念のため書き添えますが、UPZ内に立地すること自体が問題だと言っているわけではありません。 玄海原発のUPZには、佐賀・長崎・福岡の3県にまたがって多くの人が暮らし、工場も操業しています。ただ、DCの顧客、特に海外のハイパースケーラーは、立地のリスク評価を非常に細かく行います。 事業者がこの点をどう説明していくかは、顧客獲得に関わる論点です。

論点4:6,000億円で、雇用は60〜80人

同社の説明どおり1MWあたり2,000万ドルとすれば、総投資は約6,000億円。一方、運用時の雇用は60〜80人です。

DCは、投資額のわりに雇用が少ない施設です。これは伊万里に限った話ではありません。

地元にとっての恩恵の中心は、雇用よりも固定資産税です。建物と設備に巨額の投資が行われるため、自治体の税収は大きく増えます。一方で、地元の関心は雇用や地域経済への波及に向きがちで、期待と実際の恩恵がずれることがあります。

当サイトがこれまで取り上げてきたように、全国で住民訴訟が相次ぎ、東京都は優良DCの認定制度を作り始めています。伊万里市が予定している地元説明と環境保全協定で、騒音、排熱、非常用発電機、水の使用量といった具体的な項目がどこまで盛り込まれるか。協定の中身が、今後の九州のDC誘致の「ひな形」になる可能性があります。

論点5:なぜ「九州」なのか — アジアとの距離

最後に、外資がなぜ東京の次に九州を選ぶのかを考えておきます。

DayOneの拠点は、シンガポール、ジョホール、バタム、バンコク、香港、そして東京。アジアを面で押さえる事業者です。地図で見れば、九州は日本の中で最もアジア大陸に近い場所にあります。

さらに、東京・大阪から離れていることは、首都圏の大災害の際のバックアップ拠点として意味を持ちます。前回の記事で、東京湾岸に集中するDCの災害リスクを書きました。地理的な分散を求める顧客にとって、九州は東京と同時に被災しにくい選択肢です。

一方で、課題もあります。通信の集積は、まだ東京・大阪に遠く及びません。 インターネットの相互接続点(IX)や、海外とつながる海底ケーブルの陸揚げは、首都圏と大阪に集中しています。電気と土地は九州にあっても、ネットワークはまだ追いついていない。 九州が本当の「第3の集積地」になれるかどうかは、電力(ワット)だけでなく通信(ビット)がどこまで九州に来るかにかかっています。

まとめ

  • 2026年10月2日、シンガポールのDayOneが佐賀県伊万里市と進出協定。 受電容量200MW、2027年着工・2030年に第1期稼働予定。160MW分の電気付き用地は確保済み
  • DayOneは中国GDSの海外部門が2025年に独立した会社。ソフトバンク・ビジョン・ファンドなどから約19億ドルを調達し、東京に続く日本2拠点目
  • 九州北部では、糸島300MW・北九州120MW・伊万里200MWで合計620MW。「第3の集積地」の有力候補に
  • ただし佐賀県も糸島市も、国のGX戦略地域(DC集積型)の外。事業者が見ているのは指定より電気と土地の早さ
  • 現場の論点は5つ。工業団地という土地の強さ、「九州は電気が余っている」の誤解、原子力発電所の30km圏という立地、投資額に比べて少ない雇用、電気はあっても通信が追いついていないこと

電気と土地を求めて、データセンターは東京湾岸から九州へも動き始めました。 次に動くべきは、通信のほうです。

※アイキャッチ画像はイメージです。伊万里東部工業団地や、計画中の施設を撮影したものではありません。


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関連用語: ハイパースケーラー / BCP / コロケーション / WUE

出典

この記事は DCトレンド研究 が独立した第三者の立場で執筆しています。