売上は減ったのに、利益は5割増 — DC建設ラッシュでサブコンが「選ぶ側」に回った

✍️ DCトレンド研究編集部
#サブコン #ダイダン #日揮 #空調設備 #受注残 #施工能力 #液冷 #建設2024年問題

決算に現れた、奇妙な共通点

データセンター建設ラッシュの恩恵を受けているのは、DC事業者やGPUメーカーだけではない。

実際に建てる側——設備工事を担うサブコン(サブコントラクター)とエンジニアリング会社の決算に、いま共通した現象が起きている。

まず2社の数字を見てほしい。

ダイダン(空調・衛生・電気設備工事)— 2026年3月期

項目金額前期比
受注工事高3,531億円+25.5%
売上高(完成工事高)2,562億円▲2.5%
営業利益344億円+49.7%
経常利益357億円+52.3%
純利益267億円+53.5%

日揮ホールディングス(エンジニアリング)— 2027年3月期 第1四半期

項目金額前年同期比
売上高1,593億円▲16.1%
営業利益124億円+56.4%
経常利益214億円+132.3%
純利益116億円+107.4%

共通点に気づかれただろうか。両社とも売上高は減っているのに、利益は劇的に増えている。

通常、建設・工事業で売上が減れば利益も減る。固定費を売上でカバーするビジネスだからだ。この逆転現象には、明確な理由がある。

「量」ではなく「質」で稼ぐ局面に入った

答えはシンプルだ。仕事を選べるようになったのである。

ダイダンの受注工事高は25.5%増の3,531億円。売上(完成工事高)が2,562億円だから、受注が売上を約1,000億円上回っている。つまり工事が消化しきれず、繰越工事高(受注残)が積み上がっている。同社の繰越工事高は過去最高水準にある。

数年先まで仕事が埋まっている状態では、企業行動が変わる。

  • 採算の悪い案件を断れる
  • 価格交渉で強く出られる
  • 施工しやすい案件を優先できる

結果として、売上(量)を追わずに利益率(質)を取りにいく経営が成立する。売上微減・利益5割増という数字は、その帰結だ。

これは同社に限った話ではない。空調衛生設備工事の大手5社(高砂熱学工業・三機工業・ダイダン・大気社・朝日工業社)は全社が前期比二桁の受注増となり(大気社+26.8%、ダイダン+25.5%)、全社が過去最高益を更新している。

背景にあるのは、データセンター・半導体工場の新増設、脱炭素に伴う省エネ空調への更新、そして都市再開発という構造的な建設需要である。

なお本記事は業界動向の解説であり、特定銘柄への投資を勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

【現場視点】DC建設で、何がいちばん逼迫しているのか

ここからは現場の話をしたい。「データセンターを建てる」と言ったとき、実際に逼迫している工種はどこなのか。

電気設備工事:最大のボトルネック

受変電設備、キュービクル、幹線、UPS、非常用発電機、そしてラックまでの配電。DC建設費に占める電気設備の比率は、一般的なオフィスビルとは比較にならない。

しかも1ラック120kW級のAIラックが前提になると、ブスバーの容量も遮断器の定格もすべて上がる。扱う電力が大きくなるほど、有資格者でなければできない作業の比率が上がる

空調衛生設備工事:液冷化で仕事が増えた

従来のDCは「大きな空調機を入れる」仕事だった。だが液冷(DLC)への移行は、この工種の中身を変えている。

  • CDU(冷却液分配ユニット)の設置
  • 一次側・二次側の配管工事
  • 熱交換器、ポンプ、バルブ類
  • 水質管理設備、漏水検知
  • 屋外のチラー・冷却塔

配管工事のウェイトが劇的に上がるのだ。裏づけもある。配管大手のGeorg Fischerは、2026年上半期の液冷関連受注が倍増したと発表している。

つまり液冷への移行は、冷却技術の話であると同時に、設備工事会社にとっての追い風でもある。サムスンがCDU・HVAC機器の生産強化に約270億円を投じるのも、同じ流れの中にある。

技能者という、増やせない資源

そして最大の制約がここだ。人である。

電気工事士、電気主任技術者、配管技能者、溶接工——これらは短期間で増やせない。資格と経験が要るからだ。加えて建設業には時間外労働の上限規制(いわゆる建設業の2024年問題)が適用されており、一人あたりの投入時間を増やして凌ぐこともできない

DC建設ラッシュ、半導体工場の新増設、都市再開発——同じ技能者の奪い合いが同時に起きている。サブコンが「選ぶ側」に回れたのは、この構造があるからだ。

DC開発の新しいリードタイム要因

ここが本記事で最も伝えたい論点である。

当サイトではこれまで、DC開発のボトルネックとして次を挙げてきた。

そこに、**第4のボトルネックとして「施工能力」**を加える必要がある。

土地があり、電力の契約が取れ、設計が固まったとしても、工事枠が押さえられなければ建たない。そして主要サブコンの受注残はすでに数年先まで積み上がっている。

北米で「いま契約するテナントの多くが2028年納品」となっている理由は、用地や電力だけではない。建てる人が足りないという、きわめて物理的な制約も効いている。

伊藤忠が年1〜2カ所というペースでDC開発を計画しているのも、投資余力の問題というより、それが施工能力の現実的な上限に近いからだと読むほうが自然だろう。

ブラックストーン記事の「5工程」を、数字で答え合わせする

当サイトでは以前、ブラックストーンが日本に4.8兆円を投資する構想を扱った際に、恩恵が波及する5つの工程を整理した。

建設 → 電源 → 冷却 → 接続 → 運営

今回の決算数字は、この仮説の答え合わせになっている。

工程今回確認できた実データ
建設サブコン大手5社が全社二桁受注増・全社過去最高益
電源電気設備工事の逼迫、有資格者の不足
冷却空調衛生の受注増、Georg Fischerの液冷受注倍増、サムスンのCDU増産投資
接続Zayoが光ファイバー容量を長期確保、日東電工がHDD部材に280億円投資
運営24時間運用を担う人材確保が各地の課題に

投資マネーがどこに落ちるかという議論は、実際の決算で裏づけられ始めたと言っていい。

まとめ:ボトルネックは「金」から「人と枠」へ

AIデータセンターへの投資額は、報道されるたびに桁が上がっている。オハイオでは1,050億ドルの保証秋田では2兆円、伊藤忠は数千億円。

だが今回の決算が示すのは、もはや制約は資金ではないということだ。金は世界中から集まっている。足りないのは、それを建物と設備に変換する能力のほうである。

DX担当者・経営企画の立場からは、次の点を押さえておきたい。

  1. 自社のデータセンター調達で「2028年」と言われたら、それは電力だけの話ではない — 施工能力の制約も含まれている
  2. 自社施設への設備投資も、いま同じ競争にさらされている — サブコンは選ぶ側にいる。相見積もりで安く叩く発想は通用しにくい局面にある
  3. 早く動くことの価値が上がっている — 枠の確保という意味で、意思決定の速さがそのままコストになる

そして業界全体の課題として、技能者の育成が改めて浮上する。設備工事の担い手を増やさない限り、日本のAIインフラは「金はあるが建たない」状態に陥りうる。

建設ラッシュの主役は、GPUでも投資ファンドでもない。現場で配管を回し、盤をつなぐ人たちである。その事実が、今回の決算にはっきり表れている。


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関連用語: DLCUPSコロケーションPUE

この記事は DCトレンド研究 が独立した第三者の立場で執筆しています。