Anthropicの上場申請書類を一次資料で読む — 計算能力の契約は2045年まで。「建物」と「中身」を分けて押さえる戦略
10月26日、SECに正式に提出された
AI企業のAnthropic(アンソロピック)が、2026年10月26日、米証券取引委員会(SEC)に、株式を上場するための登録届出書「Form S-1」を提出しました。SECの公開データベース(EDGAR)で、誰でも読むことができます。
この記事では、報道ではなく、この書類そのものに何が書かれているかを確認していきます。データセンター業界にとって大事なのは、売上や利益よりも、計算能力(コンピュート)とデータセンターをどう確保しているかの部分です。
まず注意:報道の「総額」と、書類に書かれた数字は違う
書類の提出に先立ち、米メディアは、非公開で提出されていた下書きの内容として「計算能力の契約は今後10年で約4,500億ドル」「交渉中を含めると最大7,500億ドル」などと報じてきました。数字は報道によってばらばらです。
10月26日に提出された正式な書類を読むと、本文には「2026年9月30日時点とそれ以降に結んだ購入契約とリース契約の総額は○○ドルを超える」という文が何度も出てきますが、その金額の部分は空欄のままです。上場前の書類では、こうした数字は後から書き加えられることがよくあります。
一方、書類の後半にある財務諸表の注記には、次の数字がはっきり書かれています。
| 書類の箇所 | 書かれている内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 注記13(契約と偶発債務) | 2026年6月30日時点で、解約できない契約に基づく確定または最低保証の支払い見込み。期間は1〜20年 | 約2,656億ドル |
| 注記17(後発事象) | 6月30日より後に結んだ、または変更した契約の最低支払い義務。2026〜2036年に始まり、期間は最長20年。一部は条件つき | 約2,450億ドル |
| 同上 | 同じ期間に結んだ短期の契約の、解約できない最低支払額 | 約210億ドル |
参考までに、2025年12月31日時点の同じ種類の契約は約546億ドルでした。わずか半年あまりで、約10倍に膨らんだことになります。
この記事では、報道の総額ではなく、書類に数字として書かれているものだけを使います。
なお、書類に明記されている数字として、2026年1〜6月の売上は約163億ドル(利用量に応じた課金が131億ドル、定額の課金が32億ドル)、同じ期間の純損失は807億ドルです。
書類に書かれている、主な計算能力の契約
書類の「Contractual Obligations(契約上の義務)」の項に、主な契約が個別に書かれています。
| 相手 | 契約の中身(書類の記述) | 金額 | 期間 |
|---|---|---|---|
| 使っても使わなくても払う最低額。足りなければ差額を払う | 少なくとも約1,145億ドル | 2026年4月〜2033年7月 | |
| Amazon | 同上 | 少なくとも1,100億ドル | 2026年5月〜2036年4月 |
| Microsoft | 同上 | 少なくとも449億ドル | 2026年11月〜2033年5月 |
| SpaceXAI(旧xAI) | NVIDIA GPUの計算能力。すべて引き渡された後は月約31億ドル(12月の見込み) | 最大1,205億ドル | 2029年まで。初期の解約不可期間の後は90日前の通知で解約可能 |
| Broadcom | TPUを使う機器の5年間の設備リース。データセンターで「使える状態」になってから支払いが始まる | 約1,612億ドル(利息を除く) | 2026年から順次稼働、2027年以降に追加 |
| Nscale | NVIDIA GPUの計算能力。引き渡され、受け入れた分だけ支払う | 最大約446億ドル | 2033年まで |
| Lambda | NVIDIA GPUの計算能力。8月の契約(約349億ドル分)は、Lambdaが建物のリースを期限内に確保できなければ解約できる | 約413億ドル | 2034年まで |
| AMD | 2027年に、AMDのラック型システム「Helios」を調達 | 200億ドルを超える見込み(表には含まれない) | 2027年〜 |
このほか、Googleなどから2028〜2031年に追加でTPUの計算能力を調達する約束があり、その支払いは1,250億〜1,500億ドルと見積もられています(これも表には含まれません)。
書類は、契約に基づく支払いの多くが2031年から2045年にかけて発生すると説明しています。20年近く先まで、計算能力とデータセンターを押さえているということです。
「Anthropic Direct」— 建物と、中のチップを分けて押さえる
書類の中で、データセンター業界にとってもっとも興味深いのが、「Anthropic Direct」と名づけられた仕組みです。
書類によると、Anthropicは以前、クラウド事業者から期間を決めて計算能力を買うだけでした。いまは、それに加えて、
- AI用のチップ(アクセラレーター)を直接リースし
- 自社の仕様に合わせて建てられ、他社が運営する専用のデータセンターに置いて使う
という「ハイブリッド」の形に移っています。最初の専用データセンターは2026年に稼働したとされています。
ポイントは、データセンターの建物(の容量)の契約と、その中に置くチップの契約を、別々に結ぶことです。書類はその理由を、次のように説明しています。
データセンターは用意するのに時間がかかるが、計算能力の費用全体に占める割合は小さい。だから、データセンターの容量を早めに押さえ、より大きな金額になるチップへの投資は、必要な量がはっきりするまで後回しにできる。
データセンターの側は、たとえばFluidstackという会社が開発と運営を請け負う契約や、Anthropicが自分でデータセンターを借りる契約があります。土地・電力・建物は他社が用意し、Anthropicはその容量を借りて、運営は専門の会社に任せる形です。
さらに注記13によると、Anthropicは2026年、データセンターの開発事業者に対して、保証や費用の肩代わりの取り決めを結んでいます。目的は、納期の長い機器や資材を先に発注してもらうことで、条件次第で支払う可能性のある額は、6月30日時点で最大8億ドルとされています。変圧器や発電機など、届くまでに何年もかかる設備を、借り手であるAI企業が先回りして押さえにいっていることが分かります。
【現場視点】この戦略が、データセンター業界に意味すること
データセンターをつくる側から見ると、この戦略はとても理にかなっています。
データセンターの建物は、土地の確保、電力の申し込み、建設、試運転まで、数年かかります。一方、AIのチップは1〜2年で世代が変わります。建物とチップを同時に決めようとすると、建物ができあがるころには、決めたチップが古くなってしまいます。
「箱は早く、中身は遅く」決める。これは、当サイトで取り上げてきたコロケーションの考え方そのものです。大阪の記事では「建物はNTT、中のGPUは利用者」という分担を説明しましたが、Anthropicは書類の中で、この分担を自社の戦略として明言したことになります。
データセンター事業者にとっては、AI企業が、何年も先の建物の容量を、チップより先に押さえにくる時代になったということです。逆に言えば、電力と建物をいち早く用意できる事業者が、AI企業に選ばれます。
電力:敷地内のガス発電に頼る計画と、そのリスク
書類は、電力の確保についても、かなり具体的に書いています。
- データセンターの電力は、電力会社との契約か、場合によっては敷地内で発電して電力網を通さずに受ける(ビハインド・ザ・メーター)方法で確保する。どちらも長い準備期間と、前もっての大きな資金が必要
- 計画中のデータセンターの一部は、敷地内の専用の天然ガス発電に頼る
- その燃料費は、上限なしでAnthropicが負担する取り決めが一般的で、ガスの値上がりや供給の途絶のリスクを負う
- ガス発電に頼るデータセンターが増えると、同じ地域でガスとパイプラインの奪い合いが起き、燃料の確保が難しくなるおそれがある
また、地域や電気料金を払う人たちへの影響を抑えるため、送電網の増強費用を負担する、必要な分の新しい発電所を調達する、電力需給が厳しいときに使用を抑える仕組みに投資する、といった自主的な約束をしてきたことも書かれています。
これは、10月24日の記事で取り上げたトランプ大統領の「電気は自分でつくれ」の流れと重なります。AI企業自身が、自前の発電と、地域への負担の肩代わりを、すでに事業の前提にしていることが、書類から読み取れます。
リスク:反対運動と「止められる」可能性
書類の「リスク要因」には、データセンター業界にとって見逃せない記述が並んでいます。
- 米国の一部の州や自治体は、データセンター新設の一時停止(モラトリアム)を検討・承認している。たとえばニューヨーク州は大型施設の州の許可を一時停止し、テキサス州は電力網の緊急時に大口需要を止めたり切り離したりする仕組みを設けた
- 電力が足りない地域では、新しい大口の需要が強制的に使用を抑えられることが増えるかもしれない
- データセンター建設への反対運動は、地域を越えて組織的になっている。そして、Anthropicの知名度そのものが、関係する計画への注目を集める可能性がある
AI企業が、自社の名前が反対運動を呼びうることを、投資家向けの公式書類でリスクとして明記した。これは、当サイトで取り上げてきた昭島やつくばの動きが、AI企業の経営の問題にまでつながっていることを示しています。
Nscaleとの契約:「引き渡された分だけ払う」
10月18日の記事で、Nscaleのノルウェーの拠点が液冷の水漏れや火災で約半年遅れていることを取り上げました。そのNscaleとAnthropicの契約が、書類に書かれています。
- 2026年8月に結んだ、NVIDIA GPUの計算能力の契約で、最大約446億ドル、2033年まで
- 料金は、計算能力が引き渡され、Anthropicが受け入れた分だけ発生する
- Nscaleは、GPUとデータセンターの設備のための資金を、一定の期間内に確保するよう最善を尽くすことになっている
- Nscaleが引き渡しや稼働率の条件を守れない場合などには、契約を解除できる
つまり、建設が遅れたときのリスクは、主にNscaleの側にある契約です。Lambdaとの契約でも、Lambdaが建物のリースを期限内に確保できなければ解約できるとされています。AI企業は、新興のデータセンター事業者を使いながら、遅れのリスクは相手に負わせる形をとっていることが分かります。
日本への手がかりは?
日本のデータセンター業界として気になるのは、10月13日の記事で取り上げたNTTの大阪の計画との関係です。
書類を確認した範囲では、NTTや大阪、日本のデータセンターについての具体的な記述はありませんでした(「日本」という言葉は、株式の販売に関する説明の中に出てくるだけです)。
一方で、書類には次のような記述があります。
当社のデータセンターのインフラ計画は、現在、主に米国にある。世界の顧客や研究の広がりに合わせ、海外でもデータセンターの容量の確保を進めている。
大阪の計画が実現するかどうかは、この書類からは判断できません。ただ、海外でのデータセンター確保を進めていること、そして「建物は早く押さえ、チップは後から」という戦略は、報じられている大阪の計画の形と矛盾しません。
まとめ
- Anthropicが10月26日、SECに上場のための登録届出書(Form S-1)を正式に提出。誰でもEDGARで読める
- 報道の総額は下書きに基づくもので、正式な書類の本文では空欄。ただし財務諸表の注記には、6月末時点で約2,656億ドル、その後の新規・変更契約で約2,450億ドル(ほかに短期約210億ドル)の最低支払い義務が明記されている。個別には、Google(約1,145億ドル以上)、Amazon(1,100億ドル以上)、Microsoft(449億ドル以上)、Broadcom(約1,612億ドルのリース)、SpaceXAI(最大1,205億ドル)、Nscale(最大約446億ドル)、Lambda(約413億ドル)など、個別の契約が明記されている。支払いの多くは2031〜2045年
- 「Anthropic Direct」では、データセンターの建物の容量を早く押さえ、チップへの投資は後から決める。現場の目で見ても理にかなった戦略で、コロケーションの考え方を自社の戦略として明言した形
- 電力は、電力会社との契約に加え、敷地内の天然ガス発電に頼る計画もある。燃料費の上昇やガスの奪い合いをリスクとして明記
- ニューヨーク州の許可停止やテキサス州の緊急時の切り離し、組織化する反対運動、自社の知名度が注目を集めることまで、リスクとして書かれている
- 日本やNTTの大阪計画についての具体的な記述はなかったが、海外でのデータセンター確保を進めているとは書かれている
AI企業は、もはやデータセンターを「借りる客」ではありません。 20年先までの建物と電力を押さえ、遅れのリスクを相手に負わせ、自前の発電まで背負う。上場申請書類は、AI企業がデータセンター業界のいちばん大きな発注者になったことを、数字で示しています。
※編集部注:当サイトは記事作成にAIを活用しています。本記事はAnthropicがSECに提出した公開書類と公開された報道に基づいて作成しており、Anthropicからの情報提供や依頼は受けていません。
※アイキャッチ画像はイメージです。Anthropicや関係企業の実際の施設を写したものではありません。
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関連用語: コロケーション / GPU / ハイパースケーラー / LLM
出典
一次資料
- SEC EDGAR: Anthropic, PBC — Form S-1 提出書類一覧(2026年10月26日提出)
- SEC EDGAR: Anthropic, PBC — Form S-1 本文(anthropicpbc-sx1.htm)
- 本記事で参照した主な箇所:Risk Factors(電力・ガス発電・モラトリアム・反対運動に関する記述)、Management’s Discussion and Analysis — Contractual Obligations(Infrastructure Service Arrangements、Infrastructure Equipment Leases)、Business — Our Data Center Strategy、Notes to Consolidated Financial Statements — Note 13(Commitments and Contingencies)・Note 17(Subsequent Events)
報道(下書きの段階の数字を含むため、本記事では総額には使用していない)
この記事は DCトレンド研究 が独立した第三者の立場で執筆しています。