幽霊データセンターが電力網を埋める — テキサス474GW、オハイオは30GW→13GW。「空押さえ」を見抜く日米の手口

✍️ DCトレンド研究編集部(現役DCエンジニア監修)
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「ゴーストデータセンター」とは何か

米国で、「ゴースト(幽霊)データセンター」という言葉が広がっています。

データセンターを建てたい事業者は、まず電力会社や送電網の運営者に、電気の申し込みをします。ところが、その申し込みの中に、

  • 同じ計画を、いくつもの電力会社や場所に同時に出しているもの
  • 土地も、お金も、借り手も決まっていないのに、とりあえず枠だけ押さえたもの
  • 最終的な規模を大きく盛って出しているもの

が大量に含まれていることが、分かってきたのです。電力会社の帳簿の上には存在するのに、実際には建たない。これが「幽霊」と呼ばれるゆえんです。

日本経済新聞は11月1日、こうした過剰な申し込みが広がり、支払い能力を確かめたところ計画の6割が消えた例もあると報じました。この記事では、米国で実際に何が起きているのかを、州政府や電力会社の動きから確認していきます。

テキサス:474GWの列に、州知事が「全件監査」

もっとも劇的なのがテキサス州です。テキサス・トリビューンの報道をもとにまとめます。

項目内容
接続待ちの規模テキサス州の送電網(ERCOT)の大口接続の列には、1,800件超・合計474GW超が並ぶ。これは過去最大の電力需要の5倍以上
データセンターの割合州知事によると、新しい電力の申し込みの約9割がデータセンター
州知事の命令(8月3日)接続の手続きを進めているデータセンターをすべて監査するよう、州の公益事業委員会(PUCT)とERCOTに指示。監査を通らない計画は、送電網への接続を認めない
確認する中身受けた税の優遇、電気の使い方と自前の発電、水の使い方と冷却方式、地域への影響を抑える取り組み、本当の所有者
止まったものERCOTは、大口の接続をまとめて審査する手続き(Batch Zero)と、それにともなう送電計画の検討を一時停止

州知事が監査に踏み切ったきっかけの一つは、データセンター側が情報を出さなかったことです。州が電気と水の使い方を尋ねる調査を行ったところ、通知した377社のうち、回答したのは28社だけでした。

業界団体のデータセンター連合は、「正しく行われれば、この審査はまじめな事業者を見分けることにつながる」として、早い監査を求めています。

なお、ブルームバーグNEFは、この監査によって49.8GW分のデータセンターの需要の接続が遅れ、事業者のコストが最大150億ドル増える可能性があると試算しています(POWER誌)。

オハイオ:「使わなくても85%払う」で、見込みが半分以下に

もう一つの例が、オハイオ州の電力会社AEP Ohioです。

AEP Ohioは、大型データセンター向けの新しい料金ルールを導入し、州の公益事業委員会(PUCO)が2025年7月に認めました。その柱は、

大口のデータセンターは、契約した容量の85%分は、実際に使わなくても料金を払う

というものです(以前は60%でした)。報道によれば、この義務は最長12年続きます。

効果はてきめんでした。Utility Diveによると、AEP Ohioの大口需要の見込みは、このルールを通じて30GWから13GWへと、半分以下に縮みました。支払いの約束をしてまで電気を押さえようとする事業者は、それだけ少なかったということです。AEP Ohioは、今後はデータセンターの所有者が契約に署名した分だけを見込みに入れるとしています。

それでも、地元の製造業の団体は「AEPはまだ需要を少なくとも3.3GW多く見積もっている」と指摘しています。どこまでが本物かを見極めるのは、それほど難しいということです。

全米では「700GW」

ロイターは9月、中西部・中部大西洋・南部の一部の電力会社に寄せられたデータセンターの申し込みが、合計で700GWを超えると報じました。これは、今の米国のデータセンター全体の電力使用量の10倍以上にあたります。

さらに問題なのは、電力会社によって数え方がばらばらなことです。署名済みの契約だけを数える会社もあれば、問い合わせ段階の計画まで含める会社もあります。そのため、全米で本当はどれだけの需要があるのか、誰にも正確には分かっていません。

【現場視点】なぜ「幽霊」が生まれるのか

データセンター開発の現場から見ると、幽霊の申し込みが生まれる理由は、はっきりしています。

1. 申し込みが「安い宝くじ」になっている

電力の申し込み自体には、多くの場合、大きなお金がかかりません。一方で、電力の枠を確保できれば、その土地の価値は大きく上がります。外れても損は小さく、当たれば大きい。これでは、手当たり次第に申し込むのが合理的になってしまいます。

2. 「どこが一番早いか」を探すために、何カ所にも出す

送電網への接続の順番待ちは、場所によって数年単位で違います。事業者は、どこが一番早くつながるか分からないので、複数の候補地で同時に申し込み、早く空いたところだけを使います。電力会社からは、他社に出された申し込みは見えません。その結果、1つの計画が、いくつもの電力会社の帳簿に別々に載ることになります。

3. 「電気つきの土地」を転売する

電気の枠を押さえた土地は、それだけで高く売れます。最初から建てるつもりはなく、枠を押さえた土地を、本当に建てる事業者に売ることを狙った申し込みもあります。

4. 最終の規模で申し込む

実際には最初に100MWだけ建てる計画でも、将来を見越して最終の1GWで申し込むことがあります。これ自体は悪いことではありませんが、何年も使われない枠が帳簿に残ります。

【現場視点】誰がツケを払うのか

幽霊の申し込みは、事業者どうしの問題だけでは済みません。

電力会社は、申し込みをもとに将来の需要を見込み、それに合わせて発電所や送電線の計画を立てます。見込みが膨らめば、

  • 必要以上の送電線や変電所の増強が計画される
  • 電力の取引市場で、将来の供給力の価格が上がる
  • その費用の一部が、家庭や企業の電気料金に回ってくる

ことになります。3.8GWが1分あまりで消えた日の記事で取り上げた北米最大の電力網PJMでも、データセンターの需要見込みが電気料金に影響しています。

そしてもう一つの被害者が、本当に建てようとしている事業者です。幽霊の申し込みが列の前に並んでいれば、本物の計画はその後ろで何年も待たされます。

日本は、どう防いでいるか

日本でも、同じ問題は起きています。日本経済新聞は2026年2月、東京電力の管内で、データセンター向けに整備する送電網の事前の契約容量の約3割が、実際には使われない計画になっていると報じました。

日本と米国の対策を並べると、次のようになります。

手口米国日本
お金で本気度を確かめるオハイオ:契約容量の85%は使わなくても払う送配電各社:工事費負担金を3カ月以内に払わなければ申し込み取り消し(2026年10月から)
使わない枠を取り上げる―2027年度から、30MW以上の大口で、計画に届かない状態が1年を超えたら差分を開放、延期には費用精算(予定)
中身を監査するテキサス:電気・水・所有者などを全件監査―
登録・見える化FERCが50MW以上の大口需要の登録制度を承認(トランプ大統領の記事)―
公共が先に押さえて配る―北海道:道が先に電力を申し込み、公募で選んだ事業者に引き継ぐ。転売目的でないことを審査(北海道の記事)

米国が州ごとに、お金や監査で対処しているのに対し、日本は全国の送配電会社のルール(約款)で一律に対処し、さらに北海道のように公共が枠を配る方式も出てきています。

【現場視点】ふるいの目を細かくしすぎると

ただし、幽霊を締め出す対策には、副作用もあります。

  • お金のある会社だけが残る:「使わなくても85%払う」ようなルールは、資金力のあるハイパースケーラーには耐えられても、新しい事業者や中小の事業者には重い負担です。本物の計画まで、ふるい落としてしまうおそれがあります
  • 審査が止まれば、本物も止まる:テキサスでは、監査のために本物の計画を含めた手続き全体が止まりました。BNEFの試算のように、まじめな事業者にもコストがかかります
  • 電力網を避けて、自前の発電へ:テキサス・トリビューンは、自前の発電で電力網への接続を避けるデータセンターは、今回の監査の対象外だと指摘しています。締め付けが強まるほど、自前の発電に流れる動きも強まるかもしれません

現場の感覚で言えば、いちばん効くのは、「本当に建てる人ほど困らない」ルールです。土地の権利、建設の発注、借り手との契約といった、本物の計画なら必ず持っている証拠を求めること。日本の約款変更や北海道の公募の配点は、その方向を向いていると考えます。

まとめ

  • 米国で、実際には建たない「ゴーストデータセンター」の電力申し込みが問題に。同じ計画を複数の場所に出す、とりあえず枠を押さえる、最終規模を盛るなどが原因
  • テキサスでは大口の接続待ちが1,800件超・474GW超(過去最大需要の5倍以上)に。州知事が8月、データセンターの全件監査を命じ、手続きが止まった。州の調査に回答したのは377社中28社だけ
  • オハイオでは、契約容量の85%を使わなくても払うルールで、AEP Ohioの見込みが30GW→13GWに縮んだ
  • 幽霊の申し込みは、送電網の過剰な増強や電気料金の上昇につながり、本物の計画を待たせる
  • 日本は、約款の変更(工事費負担金3カ月、2027年度の容量開放)と、北海道の公共が先に押さえて配る方式で対処。米国は州ごとにお金と監査で対処している
  • 対策の副作用(資金力のない事業者の締め出し、審査による停滞、自前発電への流出)にも注意が必要

電力網の「列」は、もはや先着順ではなくなりつつあります。 本気の証拠を示した計画から先に進む。日米ともに、その仕組みづくりの真っ最中です。

※アイキャッチ画像はイメージです。実在のデータセンターや用地を写したものではありません。


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関連用語: ハイパースケーラー / PPA / コロケーション

出典

一次資料・公的機関

報道

この記事は DCトレンド研究 が独立した第三者の立場で執筆しています。