電気のある場所へ、計算を運ぶ — KDDI・ソフトバンクなど12者が「広域ワークロードシフト」の実証を始めた

✍️ DCトレンド研究編集部(現役DCエンジニア監修)
#ワークロードシフト #ワット・ビット連携 #バーチャルハイパースケーラー #KDDI #ソフトバンク #富士通 #東京電力パワーグリッド #出力制御 #総務省 #2026年

10月7日、12者がコンソーシアムを発表

2026年10月7日、通信・電力・データセンター・大学の12者が、「マルチステークホルダー協調型広域ワークロードシフト実証コンソーシアム」の共同実証を発表しました。

項目内容
参加者MESH-X、NHKテクノロジーズ、九州大学、KDDI、ソフトバンク、東光高岳、東京大学、東京電力パワーグリッド、東京電力ホールディングス、富士通、北海道大学、モルゲンロット
期間2026年8月〜2027年2月
位置づけ総務省の令和8年度「ワット・ビット連携関連実証」に、2026年7月15日に採択された事業
ネットワーク国立情報学研究所の学術ネットワーク「SINET」と、東京電力パワーグリッドの電力保安用の光ファイバー(ダークファイバー)。一部区間はデータセンター間をオール光ネットワークで直結
目指す姿分散したDCを束ねて一体で運用する「バーチャルハイパースケーラー」

各者の役割もはっきり分かれています。

参加者役割
MESH-X実証の統括、オーケストレーター(後述)の開発
KDDI通信網とDC環境の提供
ソフトバンクDC環境の提供、自社のワークロードシフト基盤の開発、異なる基盤同士の接続の検討
富士通DC環境の提供、広域ワークロードシフト基盤の開発
東京電力パワーグリッド通信網(ダークファイバー)の提供
東京電力HDワット・ビット連携のビジョン提唱、助言と評価
九州大学・東京大学・北海道大学SINET接続環境の提供
NHKテクノロジーズ・東光高岳DC環境の提供
モルゲンロットGPUを貸し出すサービス(GPU as a Service)の検討

「ワークロードシフト」とは何か

ワークロードとは、コンピューターに処理させる仕事のことです。AIの学習、AIの推論、データの集計など。

ワークロードシフトとは、その仕事を、あるデータセンターから別のデータセンターへ移すことです。

これまでデータセンターは、「建てた場所で、入ってきた仕事を処理する」ものでした。ワークロードシフトは、仕事のほうを動かすという発想です。

では、何を基準に動かすのか。今回の実証では、「オーケストレーター」と呼ばれる司令塔のシステムが、次のような情報を集めて判断します。

  • 電力の需給(どこで電気が足りていて、どこで余っているか)
  • 電力市場の価格
  • GPUの使用率(どこの計算機が空いているか)
  • 蓄電池の状態
  • ネットワークの状況

たとえば、九州で晴れた昼間に太陽光が余り、出力制御がかかりそうなとき、東京で処理する予定だったAIの学習を、九州のDCで処理する。電気の余っている場所で計算し、電気の足りない場所の負担を減らす。これが基本的な考え方です。

なぜ今、これが必要なのか

この連載で追ってきた流れを振り返ると、この実証の意味がよく分かります。

  1. JERA千葉の記事 — 電気が足りないから、発電所の隣にDCを建てる
  2. 送電網の空押さえ対策の記事 — 送電網の席が足りないから、席取りのルールを厳しくする
  3. 伊万里の記事 — 電気と土地を求めて、九州へDCを建てに行く

ここまでは、すべて「DCを、電気のある場所へ持っていく」話でした。

しかし、DCを建てるには何年もかかります。そして伊万里の記事で書いたとおり、九州で余っているのは主に晴れた日の昼間の太陽光です。24時間電気を使うDCを建てても、夜や雨の日の電気は余っていません。

そこで出てくるのが、「計算のほうを、電気のある場所へ持っていく」という発想です。建物は動かせなくても、計算は光ファイバーで一瞬で運べる。昼に余る電気には、昼だけ計算を運べばいい。

コンソーシアムの発表資料も、背景として「都市部へのDC集中による電力供給の課題」と「地域に偏在する再エネの出力制御の増加」を挙げています。この二つの問題を、同時に解こうとしているわけです。

送電会社の光ファイバーが、計算を運ぶ

技術面で注目したいのは、ネットワークの構成です。

東京電力パワーグリッドが提供するのは、電力保安用の光ファイバーです。送電線や変電所を監視・制御するために、電力会社が自前で張り巡らせている通信網で、その中には使われていない芯線(ダークファイバー)もあります。

電気を送る会社の光ファイバーが、データを運ぶ。 「ワット・ビット連携」という言葉が、ここでは文字どおりの意味を持っています。

実は、同じ発想の取り組みはもう一つあります。2026年4月には、Jパワー、日立製作所、シスコ、JR東日本、JR西日本光ネットワーク、名古屋鉄道など7社が、電力会社や鉄道会社が持つダークファイバーで全国を縦断する自営の光ネットワークを作り、分散したAIデータセンターを「あたかも一つの大規模データセンターのように運用する」構想の協議会を立ち上げています。

電力会社の線路と、鉄道会社の線路。 日本中に張られた「インフラの裏側の光ファイバー」が、AIの計算を運ぶ道として注目され始めています。

【現場視点】何が動かせて、何が動かせないのか

ここからが、この記事で最も伝えたい部分です。

ワークロードシフトは、魅力的な考え方です。しかし、すべての計算が動かせるわけではありません。 現場の感覚で整理します。

論点1:動かしやすい仕事と、動かしにくい仕事

仕事の種類動かしやすさ理由
AIの学習動かしやすい何日も何週間もかかる長い処理で、途中で一時停止して状態を保存(チェックポイント)できる。数分の遅れは問題にならない
夜間のデータ集計・バッチ処理動かしやすい締め切りまでに終わればよく、どこで処理しても結果は同じ
AIの推論(チャットの応答など)条件つき利用者に近い場所で、すぐに応答する必要がある。遠くのDCへ移すと応答が遅くなる
銀行の決済・企業の基幹システム動かしにくい止められない。データの置き場所も契約や規制で決まっていることが多い

ワークロードシフトの主役は、AIの学習です。逆に言えば、AIの学習が国内のDCの電力消費に占める割合が大きくなるほど、この仕組みの効果は大きくなります。

論点2:計算は動かせても、データは重い

「計算を光ファイバーで一瞬で運べる」と書きましたが、実際にはデータの移動が壁になります。

AIの学習には、大量の学習データと、学習途中のモデルの状態(チェックポイント)が必要です。大きなモデルでは、チェックポイントだけで数百GB〜数TBになることもあります。

ざっくり計算してみます。1TBのデータを100Gbpsの回線で送ると、理論上でも約80秒。実際にはもっとかかります。これが数十TBの学習データになれば、移動だけで数十分から数時間です。

だからこそ、今回の実証ではオール光ネットワークでのDC間直結を検証しています。途中で電気信号に変換せず、光のまま送ることで、遅延を減らし、大容量を流す。ワークロードシフトの成否は、計算機ではなく、回線で決まると言っても過言ではありません。

そして現実的には、学習データをあらかじめ複数の拠点に置いておき、計算の指示とチェックポイントだけを動かす運用になるはずです。そのためには、拠点ごとに同じデータを持つための保存容量が必要になります。

論点3:動かした先に、空いているGPUがあるか

エンジニアとして、最も気になるのはここです。

計算を九州へ動かすには、九州のDCに、空いているGPUが待っている必要があります。

しかし、GPUは非常に高価な機械です。1台で数百万円から数千万円。DC事業者にとって、GPUを遊ばせておくことは、そのまま損失です。だから、どのDCもGPUの稼働率をできるだけ高く保とうとします。

「昼に九州の電気が余ったら、九州のGPUで計算する」ためには、九州のGPUが、夜は空いている必要がある。 昼だけ使うGPUを、高いお金を払って置いておけるのか。これは技術ではなく、商売の問題です。

コンソーシアムが「技術面・運用面」に加えて「事業面」の実証を掲げ、GPUを貸し出すサービスの事業者(モルゲンロット)が参加しているのは、この問題を意識しているからだと考えています。誰がGPUを持ち、誰が使い、余った電気の恩恵を誰が受けるのか。 ここの答えが出なければ、技術が完成しても普及しません。

論点4:計算を動かしても、DCの電気はゼロにならない

もう一つ、見落とされがちな点があります。

東京のDCから九州のDCへ計算を移したとき、東京のDCの電力消費は、計算の分だけ減るわけではありません。

  • サーバーは、仕事がなくても電気を使う — 待機状態でも一定の電力を消費する
  • 冷却設備や照明、ネットワーク機器は動き続ける
  • 非常時に備えたUPSなどの電源設備も、常に稼働している

本当に電力の需給に効かせるには、計算を移すだけでなく、移した側のサーバーの電源を落とす、あるいは省電力状態にするところまで制御する必要があります。オーケストレーターが「電力需給」と「GPU使用率」だけでなく、DCの設備側までどこまで連動できるかが、実証の見どころの一つです。

論点5:競合する通信会社が、つながる意味

最後に、前向きな点を書いておきます。

この実証には、KDDIとソフトバンクが両方参加しています。そしてソフトバンクの役割には、「異なるワークロードシフト基盤の接続に向けた検討」が含まれています。

これは重要です。ワークロードシフトが一社の中だけで完結するなら、その会社が持つDCの中でしか計算を動かせません。複数の会社のDCを横断して動かせて初めて、「日本全体で電気の余っている場所を使う」ことができる。

コンソーシアムは今後、複数事業者が相互に接続できるオープンな運用モデルと共通インターフェースを作り、国際標準化まで目指すとしています。一方で、先に書いたとおり、Jパワー・日立・JRなどの陣営も同じ方向を目指しています。二つの陣営の仕組みがつながるのか、別々の規格になるのか。 ここが、日本のワークロードシフトが「実証」で終わるか「社会インフラ」になるかの分かれ道だと考えています。

「止まれるDC」から「動けるDC」へ

当サイトは以前、AIデータセンターから先に停電させるという記事で、米国の電力系統が「電気が足りないときに止まれるDC」を優先的に接続し始めたことを紹介しました。

ワークロードシフトは、その一歩先にあります。止まるのではなく、動く。 電気が足りない場所では計算を減らし、電気が余っている場所で計算を増やす。DCが、電力系統にとって「調整できる需要」になる。

この連載で見てきた、発電所の隣に建てる、送電網の席取りを正す、九州へ建てに行く。どれも「DCを電気に合わせる」取り組みでした。ワークロードシフトは、「計算を電気に合わせる」取り組みです。建物を動かすには10年かかっても、計算は今日動かせる。

ただし、今はまだ実証の段階です。 期間は2027年2月まで。何が動かせて、誰がGPUを持ち、誰が得をするのか。その答えが出るのは、これからです。

まとめ

  • 2026年10月7日、KDDI・ソフトバンク・富士通・東電グループ・東大など12者が「広域ワークロードシフト」の共同実証を発表。 総務省のワット・ビット連携実証で、期間は2026年8月〜2027年2月
  • 狙いは、都市部の電力不足と地方の再エネ出力制御を同時に解くこと。全国のDCを束ねる「バーチャルハイパースケーラー」を目指す
  • ネットワークにはSINETと、東京電力パワーグリッドの電力保安用ダークファイバーを使う。電気を送る会社の光ファイバーがデータを運ぶ
  • 現場の論点は5つ。動かせる仕事(AIの学習)と動かせない仕事(決済など)、データの重さと回線、動かした先の空きGPUという商売の問題、計算を移してもDCの電気はゼロにならないこと、競合他社の基盤がつながるか
  • DCを電気に合わせるのではなく、計算を電気に合わせる。「止まれるDC」から「動けるDC」へ

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関連用語: GPU / ハイパースケーラー / LLM / UPS / エッジコンピューティング

出典

この記事は DCトレンド研究 が独立した第三者の立場で執筆しています。